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CASE STUDY

[ モノコト技術情報 ] ポリエチレン樹脂(略称:PE)

ポリエチレン樹脂は、熱いと溶けて冷えると固まる性質の(熱可塑性)樹脂で、樹脂の中でも分子構造がシンプルで加工性も高く、原料も安価です。また比重の違う物を自由に作ることが出来るうえ、密度の調整により、熱特性や機械特性を変化させることが出来ます。無臭で軽く、防湿性や電気絶縁性にも優れています。

 

 

ポリエチレン樹脂について

 

ポリエチレン樹脂は樹脂の中で最も目にする樹脂なのですが、その余りにも高い汎用性のため、形、物性が変わっていて気づきにくい処はあるかもしれません。

一般的に樹脂といえば、硬い形のある物というイメージですが、ポリエチレン樹脂の場合、フィルム、袋、ラップ、食品用チューブ、電線の被膜、ホース、漁網、ロープといった硬度の低い物へ素材が使われていることも多く、想像以上に用途は幅広く使われています。他樹脂と比べ、耐候性が優れています。特に屋外で長時間使用される用途には、耐候剤やカーボンブラックを添加することによって、数10年の寿命が要求される電線被覆、鋼管被覆にも使用することが可能になります。

 

ポリエチレン樹脂の耐熱温度は一般的には70度~90度となっています。ポリエチレン樹脂はその分子密度を調整することで、その特性を弱めたり、強めたりといった調整を行うことが可能です。主なポリエチレン樹脂の種類を挙げてみます。

 

  • 低密度ポリエチレン(LDPE)俗称:ローデン ※Low Densityの略
  • 高密度ポリエチレン(HDPE)俗称:ハイデン ※High Densityの略
  • 直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)

 

材質表記上はこれら全てをポリエチレン樹脂と呼ぶため、実際どの様な密度のポリエチレン樹脂を使用しているかは表記上確認し難いです。そんな広く使われている汎用樹脂ポリエチレンですが、表面特性に於いては実は使い勝手が悪い部類になります。

どういった点が使い勝手が悪いとされているかですが、

 

  1. 接着することが難しい
  2. 印刷の載りが悪い

 

印刷をする場合、表面に特殊な加工が必要となり、工数が増えてコスト高となります。

 

 

ポリエチレン樹脂の主な特徴

メリット

  • 安価
  • 科学的に安定しているので、水や薬品に強い
  • 電気特性に優れている
  • 防湿性に優れている
  • 吸水率が低く、耐薬品性能も優れている
  • 密度を変えることで特性を変化させることが出来る
  • 耐冷性能が比較的優れている(一般的には-20度)

 

デメリット

  • 耐熱温度が低い(一般的には90度迄)
  • 耐火性能が低い(火をつけると燃えるほど)

 

 

ポリエチレンの主な活用範囲

日用品から工業部品、電化製品、自動車部品等、加工方法も様々な方法が取れるので、使用用途、箇所は多岐にわたります。雑貨やそのパーツ、フィルム化することで袋やラップ、ラミネートといった薄い物、チューブや電線の被膜、洗剤容器、工業薬品缶、ガソリンタンクといった中空成形品、パイプ等、様々な加工方法に対応し、非常に沢山の場所に活用されています。

 

 

ポリエチレンの主な加工方法

射出成形(インジェクション成形)

金型と呼ばれる製品形状を作るために必要な型に、溶けた樹脂を流し込んで製品形状を作り出します。その後、金型の温度等により冷やし、樹脂を固めます。冷えて固まった樹脂は、金型を開いて取り出します。チョコレートを熱して溶かして、型へ流し込み、冷やして固める事に似ています。

 

押し出し成形

金型と呼ばれる形を作るために必要な型に、溶けた樹脂を押し当てて製品形状を作り出します。理論上無限に長い製品形状を作り出すことが出来ます。トコロテンをトコロテン突きで押し出して大きな塊から細長い形を作る事に似ています。

 

中空成形(ブロー成形)

ストロー状に溶かした樹脂を、上から下にぶら下げます。ぶら下げたストロー状の樹脂を囲む様にして製品形状を作るために必要な型で挟みます。ストロー状に溶かした樹脂を、風船を膨らませる様に内側へ空気を送り込んで膨らませます。型の中で膨らんだ樹脂は型に押し付けられて、製品形状を作り出します。

 

 

製品での活用事例

 

まな板(ポリエチレン樹脂製)

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材料選定理由

製品要求事項、理由として主に下記内容が選定の際に挙がりました。

①耐薬品性能が必要

②厚肉成形が出来ること

③吸水率が低いこと

④耐冷性能が比較的必要

⑤適度な硬さが必要

材料選定においては、ポリプロピレンとポリエチレン樹脂の選択肢が挙がりました。

下記理由により、ポリエチレン樹脂を選定しました。

①の要求事項については、両材質とも耐薬品性能は問題なく大きな選定理由となりませんでした。②の要求事項に関しては、厚肉成形で無垢の形状の為、収縮率が大きく、ヒケ、反り、ウェルドといった外観に及ぼす影響が出る可能性が高い為、比較的厚肉成形のコントロールが出来るポリエチレン樹脂を選定する理由となりました。③に関しては、まな板の製品要求として「水に濡れて良いこと」、「洗えること」は必須事項であり、また形状的にも直線的なラインや、水平なラインが必要な商品であり、反りがポリプロピレン樹脂よりも起こりにくいポリエチレン樹脂を選定する必要がありました。④の要求事項については、凍ったままの食品を扱う可能性も考慮する必要があり、ポリプロピレン樹脂に比べてポリエチレン樹脂は耐冷性能が高い為、選定理由となりました。⑤の要求事項は、まな板という商品の要求事項であり、あまりにも柔らかい場合は、まな板として機能しない恐れがあること、また今回のL字形状のまな板の製品特徴として、L字の脚部分が下に来る場合に於いて、表面が水平なラインを保持する必要があるのですが、ポリプロピレン樹脂だと剛性が足りなくなる可能性があり、それによって下方向にしなる可能性がある為、剛性の高いポリエチレン樹脂を選定する必要がありました。

 

製造時の注意点

樹脂製のまな板は、押し出し成形にて加工して、かなり大きなサイズの板状で出し、それをサイズごとにカットし、場合によってはカット面へ最終処理を行い完成。という工程が最も効率が良く、価格も抑えられます。しかし今回の形状は通常の板物ではなく、L字型の異形まな板でした。その為、上記の様な押し出し成形での製造が出来ず、インジェクション成形で製造する必要があります。

 

形状が樹脂成形ではコントロールが難しいとされる厚肉成形で、かつ、まな板という製品上の特性からみても、反りや表面の凸凹は絶対にあってはならないという、シンプルな形状からは想像出来ない様なシビアな条件でした。板状でしたので、樹脂を流すスピードが遅くなるとウェルドとなり、表面に波打ちが出る原因となります。成形時にはしっかりとした冷却時間をかけて成形しないと、ヒケや反りの原因となります。更に今回は強度を上げるため、炭酸カルシウムを添加しましたが、その含有率もかなり細かい設定をし、最低限の剛性を持たせながらも、硬くなりすぎて包丁が与える表面への影響を極力減らせるような粘りが残るように調整をしました。

 

しかし弊害もあります。

調整を行う際に、1つのパーツの調整を行うと少なからず他のパーツへも影響が出るからです。ポリプロピレンの場合、その調整がポリエチレン樹脂と比べて難しい為、共取りをする際は注意が必要です。金型設計時にどこまで落とし込めるかが重要になってきます。また、単体パーツで調整が難航しそうな物と、調整がし易い物とを分けておく必要があります。