CASE STUDY





ABS樹脂は、熱いと溶けて冷えると固まる性質の(熱可塑性)樹脂で、樹脂の中でも最も加工性が高く非常に様々な加工方法が確立され、様々な用途に使用されています。表面の光沢性も高く、透明度も比較的高い為、高級感、質感の高い物を作ることが出来ます。
ABS樹脂は樹脂の中ではかなり硬い方になります。折り曲げに対しては剛性が強いので白化はしますが、中々破断しません。但し破断する時は粘りが無いためパキッと割れてしまいます。また、電気を通しにくい(絶縁性が高い)というところもあり、用途は幅広く使われています。但し、屋外での耐性(耐候性)は弱いため、紫外線、風雨が直接当たる部分への使用は避けたほうが良いです。
ABS樹脂の耐熱温度は一般的には70度~100度となっています。ABS樹脂は3つの成分(ポリスチレン、アクリロニトリル、ブタジエン)を掛けあわせて出来た樹脂で、この3つの樹脂の特性をうまく引き出している。しかし通常の配合以外にも各成分の配合を変えることで、それぞれ別の特徴を付加したり、強くしたりすることが可能です。
主なABS樹脂の種類を挙げてみます。
<ABS樹脂の種類>
1.ガラス繊維を加えて剛性を高めた強化ABS樹脂
2.スチレンの代わりにα-メチルスチレンを重合させ、耐熱性を高めたα-メチルスチレン系ABS樹脂
3.ブタジエンの代わりにアクリルゴムを重合させ、耐衝撃性を維持しつつ耐候性を高めたASA樹脂
4.ブタジエンの代わりに塩素化ポリエチレンを重合させ、難燃性と耐候性を高めたACS樹脂
5.ブタジエンの代わりにEPDMを重合させ、ABS樹脂と同等の機械的物性と耐候性を持たせたAES樹脂
主要なものだけでもこれだけ多くの種類があります。
またABS樹脂は表面特性にも優れていて、次の様な表面処理および加工が可能です。
<ABS樹脂に施工可能な表面加工>
1.接着
2.印刷
3.塗装
4.メッキ
5.切削
6.溶接
加工性が高く、表面処理も容易なので、試作モデル用の素材として最もポピュラーな樹脂です。
ABS樹脂の主な特徴
<ABS樹脂を利用する際のメリット>
1.非常に加工性が高い
2.流動性が高いので薄肉の成形性が高い
3.剛性、硬度、耐衝撃性、引っ張りのバランスが良い
4.表面特性が良く、印刷、接着、メッキ、塗装、溶着等が可能
5.表面の光沢性が高い為、高級感のある質感が得られる
6.耐熱温度が比較的高い
7.成分を変更することで様々な特徴を付けられる
<ABS樹脂を利用する際のデメリット>
1.耐候性、耐紫外線性が低い
2.耐薬品性が低い
3.調理器具には不向き(耐熱温度がそこまで高くない)
<ABS樹脂の主な活用範囲>
日用品から工業部品、電化製品、自動車部品等、加工方法も様々な方法が取れるので、使用用途、箇所は多岐にわたります。雑貨やそのパーツ、電化製品の外殻、試作モデル用素材、自動車のメッキパーツ、リコーダー(縦笛)、プラモデル等、透明部分を除いたありとあらゆる樹脂パーツへ使用が可能です。
<ABS樹脂の主な加工方法>
●射出成形(インジェクション成形)
金型と呼ばれる製品形状を作るために必要な型に、溶けた樹脂を流し込んで製品形状を作り出します。その後、金型の温度等により冷やし、樹脂を固めます。
冷えて固まった樹脂は、金型を開いて取り出します。チョコレートを熱して溶かして、型へ流し込み、冷やして固める事に似ています。
●押し出し成形
金型と呼ばれる形を作るために必要な型に、溶けた樹脂を押し当てて製品形状を作り出します。理論上無限に長い製品形状を作り出すことが出来ます。
トコロテンをトコロテン突きで押し出して大きな塊から細長い形を作る事に似ています。
●中空成形(ブロー成形)
ストロー状に溶かした樹脂を、上から下にぶら下げます。ぶら下げたストロー状の樹脂を囲む様にして製品形状を作るために必要な型で挟みます。ストロー状に溶かした樹脂を、風船を膨らませる様に内側へ空気を送り込んで膨らませます。型の中で膨らんだ樹脂は型に押し付けられて、製品形状を作り出します。
●切削加工
ABS樹脂の塊をドリルで削って形状を削り出す切削加工。ドリルはコンピューターで管理され、入力された切削加工用3Dデータを基に形状を削り出します。切削加工は塊から形状を削りだすため、材料ロスが多くまた加工にも時間が掛かるため、量産用の加工には向きません。しかし塊から削りだす加工法のため、金型が必要無く、初期投資がかかりませんので、様々なパターンの形状を1つずつ出したいといった様な試作モデルでの用途ではコスト的に有利な方法です。
削りだしたABS樹脂へは各種表面処理(塗装、接着、メッキ、印刷等)が可能です。
●熱溶融積層法(FDM)
フィラメントと呼ばれる棒線状の樹脂を熱で溶かして積層していく加工方法。3Dプリンターと呼ばれる物の代表的な加工方法です。3Dデータを横断面で細かくスライスし、一層ずつ積層していきます。切削加工と比べて材料ロスはほぼありません。また必要な部分だけを出力する為、加工時間は少なくて済みます。(積層していく加工方法の為、高さが高い物は時間が掛かります)金型が必要無く、初期投資が掛からない点は切削加工と同じです。切削加工との一番大きな違いは、ドリルが入らない様な部分も作ることが出来る事です。試作作成する際には、主に切削加工と積層法の2種類から選択します。形状的にドリルが入りづらい形状、時間が掛けられない場合は積層法を選択する事が多いです。
<製品への活用事例|ABS樹脂の場合>
ふとんバサミ(ABS樹脂製)
・材料選定理由
製品要求事項、理由として主に下記内容が選定の際に挙がりました。
① テコの原理を利用しふとんを挟めること
② デザイン上薄肉部分が多い
③ 高級感を出したい
④ フタ等の嵌合パーツが多い
⑤ 嵌合パーツを接着する必要がある
⑥ 屋外での使用を想定し耐候性を上げる必要がある
材料選定においては、ポリプロピレンとABS樹脂の選択肢が挙がりました。
下記理由により、ABS樹脂を選定しました。
①の要求事項については、片足をふとん側へ引っかけて取り付ける為、強度と横ブレへの強度が必要でした。
②の要求事項に関しては、ポリプロピレンで製造を行うと、ヒケ等の関係上、外観に及ぼす影響が大きく、歩留まりの率も考慮しました。
③に関しては、ポリプロピレンでもある程度のツヤを出し、高級感を出すことは出来るのですが、ABS樹脂の様に光沢を出すには不向きでした。
④に関してもポリプロピレンでの嵌合調整も出来るのですが、外観への影響とのバランスの取りやすさはABS樹脂のほうが上です。
⑤の要件に有る様に、パーツをはめ込むだけではなく、接着が必要な為、ABS樹脂を選定する事になりました。
⑥にあるように屋外での使用が想定されるため、耐候性を上げる必要があり、耐候剤(紫外線吸収剤)を入れ、
ABSの弱点である「耐候性、対紫外線性が低い」という点をカバーする必要がありました。
<ABS製品 製造時の注意点>
初期コストを抑える為、複数あるパーツを「共取り」と呼ばれる方法で成形する事にしました。「共取り」とは、1つの金型に複数のパーツを配置して、同時に成形する方法です。これにより金型面数が減る事と、ロットによる色ぶれを防ぎます。
しかし弊害もあります。調整を行う際に、1つのパーツの調整を行うと少なからず他のパーツへも影響が出るからです。ポリプロピレンの場合、その調整がABS樹脂と比べて難しい為、共取りをする際は注意が必要です。金型設計時にどこまで落とし込めるかが重要になってきます。また、単体パーツで調整が難航しそうな物と、調整がし易い物とを分けておく必要があります。